2008年 12月 06日
分校 ― おまけ ― |
分校にはカメラを3台持っていった。
まずはメインの一眼レフ。
2台目がズーム付きのコンパクト機。これはまぁ、予備として。
そしてもう1台はポラロイドの SX-70 という、とても古いカメラ。
私が持っているのはオートフォーカス機能までついた比較的新しいタイプだが、
ファーストモデルは1972年に登場した。
普段は平たいお弁当箱のような形に折りたたまれているのを、
撮影時には蓋部分をガシャッと持ち上げて変形させる。
(恥ずかしながら、こういう変身モノに結構弱い。)
フィルムもかつては専用の SX-70 フィルムというのがあって、
独特の青みがかった色合いで人気が高かったのだが、
数年前にそのフィルムが生産中止となり、
事前にそれを知った熱心なファンによる買占めなどもあったようで
あっという間に市場から姿を消してしまった。
その後代用品として SX-70 Blend というフィルムが販売されるも
程なくこちらも 生産中止。
そしてこの夏、ポラロイド社は全てのインスタントフィルムの生産を終了した。
一時代を画した SX-70 といえど、フィルムがなくては写真は撮れないので、
いずれはレトロかわいい雑貨として過ごすほかない余生が待っている。
きれいな棚に大切に飾られるのも平和でほのぼのしていて
余生としては悪くない気もするが、
まだ充分使えるだけに、早すぎる隠居生活が気の毒である。
さて・・・
実を言うと私の手元には、何年も前に買った元祖 SX-70 フィルム が
1パックだけ残っていた。
もう二度と手に入らないこのフィルムで何を撮ろうかと考えているうちにも
時間はどんどん経って、もちろん使用期限はとっくの昔に切れているので
使えるかどうかもどんどんアヤシくなって、
でもまだ使えるかもしれないので潔く捨ててしまうこともできず
気持ち的にどうにも持て余してしまっていたのだ、実は。
いっそ、思いっきりどうでもよいものを、なるたけどうでもよく撮って、
ものすご~く無駄に使い切ってしまいたい! ・・・・・・とさえ思った。
好きだっただけに、 “最後” というのが重すぎて。
それが今回分校に行くことになって、やっと、正しい場所を見つけた気がした。
ひょっとするとこのためにこそ私は分校に呼ばれたんじゃないか。
この時を待っていたのだ、きっと・・・
いつしか、そう、確信していた。
それで校庭でのお昼ごはんの後、他の方々が片付けたり戸締りをしたりして
「久野陶園」に出かけるための準備をしておられるというのに、
私はその手伝いもせず、一人 SX-70 を手にして分校内をウロウロしていたのだ。
先ずは1枚、と校舎の真正面でカメラを構え、緊張した指でシャッターを押す。
・・・・・・・・・が、反応なし。
フィルムパックには電池が内臓されていて、その電池がダメだともう使えない。
何度かやってみたが、全く反応がないので
やはりダメかと諦め、室内に戻ってカメラをしまいかけたら
なんと突然目覚めてジージーとピント合わせを始めたかと思うとシャッターが切れ、
デタラメに写ってしまったものながら、1枚目の写真を無事吐き出した。
おぉ、生きてたか。間に合ってよかった。
それからは、半ば走りながら次々に写真を撮った。
時間にあまり余裕がなかったというのもあったけれど、それ以上に、
久々に目を覚ましてみたら、自分が現役時代に見てきたような懐かしい風景が
突如目の前に出現していたというので、この古いカメラが俄然はりきったのである。
「ここも!あっちも!あ~、そこ、もう1枚!」と興奮しまくるカメラ。
本当ならそれを抑えて整えてやるのが私の仕事なんだろうなぁ、と思いながらも
今日はまぁ特別、と勢いに任せた。
だから、フィルムは10枚しかないというのに似たようなところを何回も撮っていたり、
オートフォーカスのくせにひどくピンボケだったり。
(え・・・そういうのって、カメラのせいなの? はい、そうですっ!(汗) )
フィルム自体もさすがに傷んでいたようで、完璧にきれいな状態のものは1枚もなかった。
パックに内蔵されている現像用の乳剤が漏れてしまったらしく
表も裏もおかまいなしに写真のあちこちに灰色の染みを作っていたし、
撮影後にじんわりと浮かび上がった画像も全体に色ムラがひどくて、
何が写っているのかはっきりしないほどのものもあった。
・・・けど、それがどうした。
という写真が撮れてしまうのがこのカメラの怖ろしいところ。
ピンボケや汚れ、色ムラさえも味方につけて、写真の味にしてしまう。
まるで40年の歳月がそのまま写りこんでいるかのような・・・
そういうカメラだし、そういうフィルムなのだ。
こうして、最後の SX-70 フィルムは仕事を終えた。
最後にこういう最高の場所に出会うことができて、フィルムとしても本望だっただろう。
SX-70 Blend フィルムの方はまだ何パックか(期限切れだけど)残っているので
うちのカメラの引退までには、まだ少しだけ時間がある。
・・・がしかし、ただのお飾りにしてしまうのはやはりもったいない!
ポラロイド社に代わって、どこかの会社がインスタントフィルムを出してくれることを
密かに期待しているのだが。
by immigrant-photo
| 2008-12-06 00:02
| wanderings