2008年 08月 24日
西沢杏子 『詩集 虫の曼荼羅』 |
アブラゼミさま
隠したってだめです
あなたはセミになるまえは
アラブの王さまだったでしょ
ひたいにはめこまれたルビーの冠
それがなによりの証拠です
だから
どうか
足を上にあげたりして
死なないでください
* * *
アブラゼミが捕れたらこの詩集を紹介しようと
ずっと前から思っていました。
なのに今年のセミはなかなか用心深くて、
何度か失敗した・・・不覚。
尤も、この詩を読んで 「おぉ♪」 と思ってくださる方は
そんなに多くないかもしれません。
子ども時代にどれだけ虫捕りに明け暮れたか、によるでしょう。
アブラ → アラブ という連想はいいとして、
なぜルビーが出てくるのかがサッパリわからなかったという方!
実はこれ! これなんですよ!
ここにルビーの冠が!
ルビーだなんて大袈裟な・・・と思われるかもしれませんが
本当にきれいなんです。
ぜひ一度、実物を見ていただきたい。
アブラゼミは、セミの中でも一番ありふれているし
色は地味で、羽だって透き通っていなくて。
よく電柱だの網戸だのにとまって平気で鳴いていたりするところも
節操なさすぎというか、繊細さに欠けるような気がするし。
うっかりガラスにぶち当たったりするデタラメな飛び方をするのも
やっぱりアブラゼミが多いような。
何かこう・・・・・・ダメオヤジっぽいイメージなんですよね、私の中では。
まさに 「足を上にあげたりして」 死んじゃいそうな(笑)
でも!
そんなダメオヤジのくせにというか、他がイケてないからかえって目立つのか
この紅い三つの点は子供心にもとても高貴な感じがした。
正体は単眼で、他のセミにだってもちろんあるのですが、
アブラゼミのが格別に美しく感じられたのです。
だからこの詩の
「ルビーの冠」
という表現を目にしたときに、そうそう!まさにそれよ!! と
心から拍手を送って、詩人ならではの言葉のセンスに脱帽したのでありました。
この本と、もう1冊 「詩集 虫の落とし文」 という本とが朝日新聞社から出ていて
これがどちらも甲乙付けがたいほどおもしろい。
生き生きとそれぞれの虫の特徴を本当によくとらえているうえに、
ユーモアとちょっと大人な色気、さらに品のよい毒のスパイスもほどよく効いていて、
味わい深い詩が満載です。
残念ながら絶版のようですが、中古ならアマゾンなどで入手可能。
なお、つい最近その存在を知った第3弾 「詩集 虫の葉隠」 は花神社から。
これは先の2作と比べると全体に暗めで、
くすくす笑える部分が減ってしまったのがちょっと気がかりです。
by immigrant-photo
| 2008-08-24 00:14
| 本