2021年 05月 22日
いま |
今週は結局、ずっと雨だった。
関東地方の梅雨入りはまだだけれど
気分的にはもう、どっぷり
水に浸かっている感じ…
仕事の予定が流れがちというのもあり
ゆらゆらと過ごした週だった。
そんな週に見た映画「水を抱く女」が
なかなかよかった。
原題の “undine” は、ヒロインの
名前であると同時に、この作品が
ギリシャ神話を起源として、
西洋文化に連綿と続く
水の精ウンディーネ(オンディーヌ)
神話の系譜に連なるものである
ことを示唆している。
ウンディーネの物語は、これまでにも
多くの芸術家たちが様々な形で
作品化してきたが、例えばアンデルセンの
「人魚姫」がそうであるように
愛する男が裏切ったとき、
その男は命を奪われ、
ウンディーネは水に還らねばならない
という哀しい宿命を負う存在として
描かれることが多い。
映画「水を抱く女」はその流れを踏襲しつつ、
そんな古い世界の呪いから逃れるべく、
自らの「自由な瞬間を手放さずに、
自分の経験したことが消えないように」
(パンフレットの監督インタビューより)
することを選択する一人の女性の
物語として描かれている。
舞台は現代ベルリン。
ヒロインのウンディーネは
スラブ語で「沼」や「沼の乾いた場所」
を意味する名を持つこの都市の都市開発局で
フリーランスの博物館ガイドとして
働いている。
その語り口は、淡々としながらも
物語のように彩り豊かで情緒的。
いつまでも聴いていたくなる魅力がある。
そんな彼女の解説に魅せられた
恋人のクリストフは潜水夫であり、
深いダムの底に潜って
機械の修理をしたりするのが仕事だ。
満々たるダムの水は緑色に濁っており、
仄暗い水底には水草が生い茂って
不気味に揺れている。
その光景が何とも幻想的で美しく、
油断していると、うっかり
引き摺りこまれてしまいそうだ…
主演のパウラ・ベーアと
相手役フランツ・ロゴフスキが
いずれも深い陰翳を感じさせる名演で
通奏低音の如く漂う水の気配とともに
じわじわと滲みてくる。
結末は、やはり哀しい。
ただその哀しみがゆっくりと
沈んでいったあとに、恋愛感情を超えた
おおきな愛がしずかに浮かび上がって
くるようなラストショットが余韻を残す。
なお、パンフレットによると、本作は
“精霊三部作”の第一作という位置付けで
制作され、今後「火の精」「地の精」を
撮影予定とか。
楽しみに待ちたい。
by immigrant-photo
| 2021-05-22 07:25
| 映画