2014年 08月 03日
息栖神社幻影(2) |
この風景をこの目で見てみたい、とずっと思ってきた私が
実際に目にしたのは、こんな現実だった。
汽水域にありながら真水が湧く珍しい井戸で、
潮をおしのける水=おしお で 忍潮井(おしおい)とよばれる。
伊勢の明星井・伏見の直井とあわせて日本三霊水と称されるというが
相応のありがたみをこの藻だらけの水に感じるのは、正直かなり難しい。
尤も、水自体が濁っているわけではないので
真夏でなければまた様子も違っているのかもしれないが・・・
立ち去りかねて、未練がましく辺りをうろうろし始めた私に
「車で待ってる」と言い残し、息子は先に駐車場に引き返した。
息栖神社の一の鳥居は、すぐ傍を流れる常陸利根川に面して立っており、
忍潮井は、その両脇に立つ小さな鳥居それぞれの足下の瓶から湧く。
大きな一の鳥居をはさんで、写真手前側の鳥居の下には銚子の形をした男瓶、
奥のとても小さい鳥居の下には土器の形の女瓶が埋まっているという。
その男瓶と女瓶は、かつてもっと下流の日川という地区にあった息栖神社が
こちらに移された折、置き去りにされたのを嘆き悲しみ
ついには自力で川を遡ってここまで追ってきたのだとか。
しかし、そんないじらしい伝説の名残は、この風景の中にもはや感じられない。
川に囲まれたこの地域の人々にとって、
治水が何より重要な課題であることはわかるのだが
古の人々が同じ願いを託して建てたであろうこの神社の一の鳥居の真ん前に、
立派な水門を設けてしまうような護岸工事というのはどうなんだろうか。
増水から神社を護るためのものなのかもしれないが・・・
川に向かって開かれていたはずの神様の道はコンクリートの壁に阻まれ
水の神様は、哀れにも川から切り離されてしまった。
美しく整えられた河岸は、一方で、ひどく無惨な風景にも見えた。
川に向かって開かれていたはずの神様の道はコンクリートの壁に阻まれ
水の神様は、哀れにも川から切り離されてしまった。
美しく整えられた河岸は、一方で、ひどく無惨な風景にも見えた。
複雑な思いをかかえながら上ってみた土手の向こうには
常陸利根川が思いがけない広さでゆったりと流れ、
川を渡る風が心地よい。
この風景自体は、かつて神様がご覧になっていたものと
そんなに大きく変わってはいないはずなのだが。
by immigrant-photo
| 2014-08-03 09:49
| wanderings