2013年 09月 18日
旅先の風景:2013年夏・信州(8) |
フルムーンミーティング
何だかすてきな体験ができそうじゃないですか?
偶然この企画を見つけたという友だちに感謝。
私たちの行き先は「カヤック」が決めてくれたが、
旅程の方は、「フルムーンミーティング」に導かれるようにして決まった。
8月の満月の日に合わせて、旅程を組んだ。
友だちも私も、八島ヶ原湿原に行ったことはなかったけれど、
それぞれに “月明かりに照らしだされる八島湿原” を妄想しつつ
ようやく8月21日、満月の夜を迎えた。
満月の本当の明るさを、私たちは知らない。
もちろん、ふとした拍子に見上げた夜空がやけに明るく、
丸々と太ったお月様の姿を見て、あぁ今日は満月だったか、と
気付いたりすることはある。
けれど街には人工の灯りが溢れていて、
月明かりはその白々した光に容易に飲み込まれてしまうから
月だけの明るさがどれほどのものか
意識することさえ、殆どないと言っていいだろう。
集合場所の八島ビジターセンターで他の宿からの参加者と合流、
2組に分かれてこれから出発というときに
レンジャーの口から厳かに注意事項が申し渡された。曰く
「携帯の電源はオフ、カメラも禁止です。
懐中電灯を使う場合は、前に向けるのではなく、
最低限必要な足下だけを照らすようにして下さい。」
どこでもたっぷりお写真タイムが設けられるのが当たり前のような
ご時勢からすると、驚くほどのストイックさだが
可能な限り人工物を排した環境で、直に自然に触れてほしいという
真摯な想いが伝わってきて、むしろ好ましかった。
道路の下を通るトンネルをくぐり抜け、八島ヶ原湿原に入る。
朝のうちの雨は何とかあがったものの、空は大部分が厚い雲に覆われていて
月がどこにあるのかさえわからない。
昼間登った車山の山頂にも傘雲がかかっている。
宿のオーナーは「たぶん、懐中電灯なしでも大丈夫ですよ。
満月の夜は、曇っていても充分明るいですから。」と送り出してくれたけれど
平らな木道の上とはいえ、この暗がりでは足下が不安・・・
だから始めはみんな懐中電灯を点け、足下を見つめながら黙々と歩いた。
レンジャーの女性は要所要所で立ち止まっては、
湿原の成り立ちや、古来近辺で行われてきた人の営みの名残、
ここで暮らすいきものや、彼らと人との関わりなどについて
密やかな声で情熱的に語り、時にはみんなで木道に寝転んで
すでに鳴き始めていた秋の虫の声に聴き入ったりした。
雲の流れは速く、薄くなったかと思うと、また厚くなったりして
月は相変わらず顔を出さない。
それでも次第に身体全体が暗闇になじんでいったようで、
気が付けば、誰も懐中電灯を使わなくなっていた。
ひとしきり歩いて、ぺちゃくちゃとおしゃべりをしたわけでもないのに
和やかであたたかい空気が私たちみんなを包み始めたころ、
つつましい灯りがともされたテーブルを囲んで、お茶をいただいた。
あたたかなハーブティーに、余計な味がしない素朴なクッキー。
月を見ることはできなかったが、誰もが満ち足りた気持ちになった。
闇に慣れた目に、同行のメンバーの晴れやかな笑顔が
今ははっきりと見える。
明るい。
と思ったら、こんもり茂った木の葉越しに白くて丸い月が見えた。
満月!
ようやく姿を見せた月の光は冴え冴えとまぶしいほどで、
お茶会を終え、再び木道を辿り始めた私たちの足下には
くっきり黒い影が落ちた。
白く輝く木道の上を自分の影を踏みながら歩く。
聞こえるのは私たちの足音と、虫の声ばかり。
まるで夢の中にいるような気分で
スタート地点のトンネル入り口に着いた私たちは
そろって背後の月を振り返り、最後にもう一度その美しい姿を
目に焼き付けようとした。
まさにその瞬間、墨でも流したように黒い雲が現れ
あ、と思う間もなく月は消え去った。
静かでドラマチックな物語の終わりにふさわしい、
魔法のような幕引きだった。
寝る前、窓を開けてもう一度空を見てみたらまた月が出ていた。
友だちと二人窓辺に並んで、しばらくぼうっと眺めていたが
その間も月は相変わらずの変幻自在ぶりで、
まだ夢見心地の私たちに「フルムーンミーティング」のひとときを
追体験させてくれたのだった。
これは、その時の月。
(オリジナル音声ではカメラのズーム音が耳障りだったのでBGMを入れましたが・・・
あまりにもベタな選曲でスミマセン!)
この「フルムーンミーティング」から1ヶ月近く経った今でも
私は時々、八島ヶ原湿原で過ごしたあの夜を思い出す。
自分が日常を過ごしているのと同じ今この時に、
あんな風に時間が流れている場所もあるのだということを
これからも大切に、ずっと忘れずにいたいと思う。
明日は十五夜。
満月の夜7時半、月明かりに照らしだされる
八島湿原に出かけてみませんか。
夜の八島ヶ原湿原は動物達の世界。
薄闇に体を浸し五感を研ぎ澄ませば、
彼らの気配がすぐそこから伝わってくるでしょう。
少し歩いたら木道沿いのベンチでお月見をしながら
温かいお茶をお楽しみください。
何だかすてきな体験ができそうじゃないですか?
偶然この企画を見つけたという友だちに感謝。
私たちの行き先は「カヤック」が決めてくれたが、
旅程の方は、「フルムーンミーティング」に導かれるようにして決まった。
8月の満月の日に合わせて、旅程を組んだ。
友だちも私も、八島ヶ原湿原に行ったことはなかったけれど、
それぞれに “月明かりに照らしだされる八島湿原” を妄想しつつ
ようやく8月21日、満月の夜を迎えた。
満月の本当の明るさを、私たちは知らない。
もちろん、ふとした拍子に見上げた夜空がやけに明るく、
丸々と太ったお月様の姿を見て、あぁ今日は満月だったか、と
気付いたりすることはある。
けれど街には人工の灯りが溢れていて、
月明かりはその白々した光に容易に飲み込まれてしまうから
月だけの明るさがどれほどのものか
意識することさえ、殆どないと言っていいだろう。
集合場所の八島ビジターセンターで他の宿からの参加者と合流、
2組に分かれてこれから出発というときに
レンジャーの口から厳かに注意事項が申し渡された。曰く
「携帯の電源はオフ、カメラも禁止です。
懐中電灯を使う場合は、前に向けるのではなく、
最低限必要な足下だけを照らすようにして下さい。」
どこでもたっぷりお写真タイムが設けられるのが当たり前のような
ご時勢からすると、驚くほどのストイックさだが
可能な限り人工物を排した環境で、直に自然に触れてほしいという
真摯な想いが伝わってきて、むしろ好ましかった。
道路の下を通るトンネルをくぐり抜け、八島ヶ原湿原に入る。
朝のうちの雨は何とかあがったものの、空は大部分が厚い雲に覆われていて
月がどこにあるのかさえわからない。
昼間登った車山の山頂にも傘雲がかかっている。
宿のオーナーは「たぶん、懐中電灯なしでも大丈夫ですよ。
満月の夜は、曇っていても充分明るいですから。」と送り出してくれたけれど
平らな木道の上とはいえ、この暗がりでは足下が不安・・・
だから始めはみんな懐中電灯を点け、足下を見つめながら黙々と歩いた。
レンジャーの女性は要所要所で立ち止まっては、
湿原の成り立ちや、古来近辺で行われてきた人の営みの名残、
ここで暮らすいきものや、彼らと人との関わりなどについて
密やかな声で情熱的に語り、時にはみんなで木道に寝転んで
すでに鳴き始めていた秋の虫の声に聴き入ったりした。
雲の流れは速く、薄くなったかと思うと、また厚くなったりして
月は相変わらず顔を出さない。
それでも次第に身体全体が暗闇になじんでいったようで、
気が付けば、誰も懐中電灯を使わなくなっていた。
ひとしきり歩いて、ぺちゃくちゃとおしゃべりをしたわけでもないのに
和やかであたたかい空気が私たちみんなを包み始めたころ、
つつましい灯りがともされたテーブルを囲んで、お茶をいただいた。
あたたかなハーブティーに、余計な味がしない素朴なクッキー。
月を見ることはできなかったが、誰もが満ち足りた気持ちになった。
闇に慣れた目に、同行のメンバーの晴れやかな笑顔が
今ははっきりと見える。
明るい。
と思ったら、こんもり茂った木の葉越しに白くて丸い月が見えた。
満月!
ようやく姿を見せた月の光は冴え冴えとまぶしいほどで、
お茶会を終え、再び木道を辿り始めた私たちの足下には
くっきり黒い影が落ちた。
白く輝く木道の上を自分の影を踏みながら歩く。
聞こえるのは私たちの足音と、虫の声ばかり。
まるで夢の中にいるような気分で
スタート地点のトンネル入り口に着いた私たちは
そろって背後の月を振り返り、最後にもう一度その美しい姿を
目に焼き付けようとした。
まさにその瞬間、墨でも流したように黒い雲が現れ
あ、と思う間もなく月は消え去った。
静かでドラマチックな物語の終わりにふさわしい、
魔法のような幕引きだった。
寝る前、窓を開けてもう一度空を見てみたらまた月が出ていた。
友だちと二人窓辺に並んで、しばらくぼうっと眺めていたが
その間も月は相変わらずの変幻自在ぶりで、
まだ夢見心地の私たちに「フルムーンミーティング」のひとときを
追体験させてくれたのだった。
これは、その時の月。
(オリジナル音声ではカメラのズーム音が耳障りだったのでBGMを入れましたが・・・
あまりにもベタな選曲でスミマセン!)
この「フルムーンミーティング」から1ヶ月近く経った今でも
私は時々、八島ヶ原湿原で過ごしたあの夜を思い出す。
自分が日常を過ごしているのと同じ今この時に、
あんな風に時間が流れている場所もあるのだということを
これからも大切に、ずっと忘れずにいたいと思う。
明日は十五夜。
by immigrant-photo
| 2013-09-18 23:38
| 写真