2012年 05月 27日
< 杉本博司 ハダカから被服へ >< 川内倫子展 照度 あめつち 影を見る > |
5月25日(金)。
久しぶりに会うその友人とは、品川駅の時計下で待ち合わせた。
互いの近況など話しながら、先ず原美術館に向かう。
ここには以前<ウィリアム エグルストン:パリ - 京都>を見に行ったことがある。
とても素敵な美術館だったので、また行きたいと思いながら
この日まで機会がなかった。
小雨が降っていたが、これ以上ひどくなることはなさそうだ・・・
杉本博司 ハダカから被服へ
2012年3月31日(土) 〜 7月1日(日)
原美術館
ファッションに関する展示だからか、こじんまりした館内は
服飾関係の専門学校生だと思われる
個性的な服装の若者たちで賑わっていた。
私は、杉本さんの作品を実際に見るのは初めてだったが
この人の場合、1枚1枚の写真に感動する、というよりは
どのような写真を撮るか、とか
写真を使って何をするか、とかいう
コンセプトの部分がとてもユニークでおもしろいと思う。
今回の展示も、ジオラマや肖像画、マネキンの写真が
淡々と並んでいるのだが、傍らにそれぞれの衣服について考察した
杉本さんのコメントがついている。
ハダカのまま無邪気に歩き回っていた原始人は
イチジクの葉を身につけて楽園を追われることになったが、
その1枚の葉っぱが、その後いかなる変容を遂げてきたのか。
権力を持った者、虐げられる者、新しい時代を拓いていく者・・・
様々な時代の、いろいろな立場にある人々の被服の変遷を
写真で辿ることで、人間が「装う」ことの意味を問う本展も、
いかにも杉本さんらしい着眼点で楽しめた。
原美術館を後にして、品川駅に戻る頃には
雨もすっかりあがっていた。
次なる目的地は、恵比寿の東京都写真美術館である。
川内倫子展 照度 あめつち 影を見る
2012年5月12日(土) 〜 7月16日(月・祝)
東京都写真美術館
川内さんは若くして人気作家となられ、
雑誌で特集が組まれたりすることも多かったから
私もこれまで、印刷物では、結構な数の作品を目にしてきた。
けれど実際にプリントを見るのは初めてなので、
こちらの展示もとても楽しみにしていた。
その昔、書店の店頭に平積みされた「うたかた」を初めて開いてみたとき、
全体に露出オーバー気味で淡い色調の、
一見、いかにもやわらかそうに見える彼女の写真が
にもかかわらず、甘さを感じさせないことに驚いた。
時にはグロテスクだと感じるほど生々しく、
しかし空中にぽっかり浮かんだ彼岸の風景のように
静けさに満ちて、遠いもののようでもあり。
何とも不思議な感覚だった。
写っているのは、誰もが普段目にしているようなものなのに
どこか現実味がなくて。
「死んでしまうということ」
帯に書かれたこのコピーに引っ張られた部分もあるのだろうが、
当時川内さんの写真は、日常の中にある死の気配を捉えたもの
という文脈で評価されることが多かったように思う。
そのことが、私にはとても気がかりだった。
まだ若かった川内さんが、最初に、主にそういう方向から
極めて高い評価を得てしまったことは
彼女にとって随分しんどいことなのではないか、と。
これから先ずっと、死という大きくて重いテーマを背負わされて
前に進めなくなってしまいはしないか、と。
だから彼女の写真にすごく魅かれるものを感じながら
はっきり「好き」と言い切れないところが、私にはあった。
彼女のこれまでの精力的な活動ぶりを見ていれば
上のような私の勝手な心配が全くの杞憂であったことは
すでに明らかだけれど
今回の展示を見て、川内倫子という写真家は
周囲の思惑に押しつぶされてしまうようなやわな写真家ではないことを
改めてはっきり確認することができた。
死は、変わらず大きなテーマとして繰り返し立ち現れるけれど
それゆえに生というテーマも一層鮮烈に、強く感じられる。
私が思っていたよりもずっとタフな人なのだと思い、
そのタフさを好ましく感じた。
今回の展示で、もう一つとてもよかったと思うのは
映像作品があったことだ。
写真展に動画が展示されること自体は、最近
それほど珍しいことではない。
しかし、生意気を承知で言えば、これまで一度も
そういう動画をおもしろいと思ったことがなかった。
どうもだらだらしていて退屈な感じがしてしまう。
瞬間を切り取る写真家の目と
対象を記録し続ける動画という形式とは
やはり相性が悪いのだろうか・・・
ずっとそんな風に思ってきたのだが、
今回展示されていた映像作品は、おもしろかった。
ずっと見ていても、全然飽きなかった。
見開きにした写真集のような形になるように
左右別々の動画が流れるという見せ方には拘ったようだけれど、
流れる映像に、取り立てて目を引くようなシーンはない。
そこにあるのは日常。
動いているだけに、写真以上に普通に、ありふれた光景に見える。
それがなぜこんなにもかけがえなく、愛おしく思えるのか。
この続きは明日、別の記事としてまとめたい。
by immigrant-photo
| 2012-05-27 19:46
| 美術展