2012年 01月 15日
鴨志田 穣『日本はじっこ自滅旅』 |
今年最初に読んだ本のタイトルがこれ、というのも何だかねぇ・・・
という感じではありますが、これが意外にも元気のでる内容で。
○ ○ ○
著者の鴨志田氏はフリージャーナリスト(でいいのだろうか、世間的には)。
だが、「漫画家 西原理恵子の夫」と言った方がわかりやすいかもしれない。
二人は1996年に結婚し、1男1女をもうけるが
鴨志田氏のアルコール依存症などが原因で2003年に離婚。
鴨志田氏はその後依存症を克服して、2006年に復縁したが
2007年3月、腎臓がんのため亡くなった。
この本は、その彼が妻から引導を渡されて
みじめったらしく、情けない気持ちをかかえたまま
うろうろと日本のはじっこを彷徨い続けた時の記録である。
「これは旅なのか、逃亡なのか。」
そう自問しながらの旅(もしくは逃亡)の目的地は
日本の様々な“はじっこ”である。
とはいいながら、どうやら各地の“はじっこ”そのものには大して
興味があるわけではないらしく、
どこに行ってもがっかりして、着いた途端に踵を返すことの連続。
目的地は成り行き任せでしばしば変更され、
その道中で様々な口実をもうけては流し込まれるアルコールは
往々にして適量をはるかに超えたものであったので
この旅の間に、彼は7回も入院することになった。
文字通りの自滅旅。
なのに、どういうわけか元気をもらえた気がするのは
こんなに弱くてかっこわるい自分にほとほとうんざりしながらも
ものすごくギリギリのところで、ではあるけれど
彼が決してあきらめようとはしていないからかもしれない。
はじっこ。
自分を責める妻のことばから逃れるようにうちを飛び出して始めた旅なのに、
目的地を設けたのが、彼なりの土俵際の踏んばりどころだったように思う。
目的地があれば、引き返す理由ができる。
高校卒業後、片道切符でタイに向った鴨志田氏である。
帰るところを失ったのを幸い、目的地を持たぬまま
どこまでもどこまでも旅をし続けることも可能だったはずだ。
でも、そうしなかった。
彼は、やはり帰りたかったのだ。
この旅は、彼自身がそのことに気付くのに必要な旅だったように思う。
もう一つ。
度々の吐血、入院騒動を経て、彼は自分が死をとても恐れている
ということにも初めて気が付いた。
こんなに“死”というものは恐ろしいものだったか。
それを知っていれば、今までの戦場の修羅場でも、違った
取材が出来たはずだろう。
若かりし日、戦火をかいくぐっての取材経験も豊富だった鴨志田氏は
死について、それなりにわかった気にはなっていただろう。
しかしそれは所詮他人事に過ぎなかった、と。
そしてここで自らの死に対する恐怖心を認めたからこそ、
彼は、漸く本気で、生き延びるための戦いを始めることができたのだろう。
途中で何度も入退院を繰り返しながらのこの壮絶な旅の記録は
「一からやり直しだ」
と東京へ戻るところで終わっており、
「あとがきに代えて」の部分は、7度目の入院中のベッドの上で書かれた。
けれどもその後、見事アルコール依存症から立ち直って
家族の元に戻ることができたことを思うと
このよろよろした足取りの旅が、彼にとってどれほど大きな意味を
持つものだったかが伺える。
それだけに、彼のあまりに早すぎる死が残念でならないけれど
きっと最期の一瞬までしっかりと生ききったであろうその生き様を
もう少し追ってみたくなって、今は続いて『遺稿集』を読んでいる。
by immigrant-photo
| 2012-01-15 16:27
| 本