2009年 09月 18日
デイヴィッド・アーモンド 『肩胛骨は翼のなごり』 |
まずはタイトルに惚れました・・・
で、店頭で手にとってパラパラとめくってみると
「ウィリアム・ブレイク」という文字が目に飛び込んできた。
ウィリアム・ブレイクの名は、最近知ったばかりだ。
(本ブログの、のら猫母さんの子育て奮闘記シリーズに、彼の本のタイトルから
言葉を借りた。「無垢の歌」 「経験の歌」シリーズがそれである。)
このタイミングで、思いがけない場所で、再びブレイクに出会ったことにも因縁を感じて
買ってみたというだけだったのだが、何気なく読み始めたらとまらなくなってしまった。
ジャンル的にはYA(ヤングアダルト)つまり、大人になりかけぐらいの若い世代向けの本
なので、確かに読みやすくはあるのだがそれだけではない。
詩情豊かで美しい物語の世界にぐいぐい引き込まれてしまったのだった。
主人公マイケルは、思春期にさしかかったぐらいの男の子。
つい最近、両親と、生まれたばかりの小さな妹とともに新生活を始めるべく引っ越したのだが
この家ときたらとんでもなくおんぼろで荒れ放題。
そのうえ前の住人は独り暮らしの老人で、ひっそり孤独死しているのが見つかったのは
死後1週間も経ってからだった・・・なんて話を聞かされてしまっては
どうがんばってみても、うきうき気分にはなれないのである。
しかも、引っ越して間もなく、元々からだが弱かった赤ちゃんの具合がとても悪くなって
入院、ついには手術まですることになってしまう。
どっちを向いても不安・不満・心配だらけのマイケルには、実はもう一つ重大な秘密があった。
おんぼろ新居の中でも格別にボロい、倒壊寸前のガレージの中に
〈何か〉 がいるのだ。
そのことを、マイケルは隣家のちょっと風変わりな女の子ミナだけに打ち明けた。
ミナは学校には行っていないが、家でお母さんからとてもユニークな教育を受けていて
ものすごく聡明で物知りなのだ。
ミナなら、〈彼〉 を救う方法を思いつくかもしれない・・・
その 〈彼〉 は、ほこりまみれのやせおとろえた体でガレージの暗がりに中にうずくまり
虫の死骸を常食として、細々と今まで生き長らえてきたらしい。
持病のリウマチの苦しみが心までも硬く強張らせつつあり、
楽しみといえば前の住人がたまに利用したらしいテイクアウトの中華料理や
ブラウンエールの残り物にありつくことぐらいで、
今度は同じものをマイケルにせがんだりする。
目も鼻も覆いたくなるほどの不潔さにもかかわらず、マイケルとミナは
献身的に 〈彼〉 スケリグの世話をし、ふたりで力を合わせて
彼をもっと安全な場所に移すことにも成功する。
そこでふたりは、ついにスケリグの本来の姿を目にするのだ。
彼の背中には翼が生えていた。
スケリグを巡る濃い体験を軸にして、病弱な赤ちゃんがそれでも何とかして
生きようとしてがんばっていること、学校生活での先生や親友たちとのやりとり、
ミナ母子(ミナのお父さんは既に亡くなっている)が教えてくれるウィリアム・ブレイクの世界、
必死で子育てをする鳥たちの姿、などがマイケルを急速に成長させる。
その性急さに時に戸惑いながらも、胸を張って引き受けていくマイケルの姿がまぶしい。
派手さはありませんが、とてもいい本です。
ぜひ親子でお楽しみください♪
by immigrant-photo
| 2009-09-18 00:35
| 本