2009年 03月 21日
梨木香歩 『沼地のある森を抜けて』 |
・・・という本なのだ、それは。
私には、もう何年も誕生日にお互いの希望の本(または、自分からのオススメ本)を
贈り合っている学生時代からの友だちがいて、
その彼女にこの本の単行本を買ってもらったのはすでに数年前のこと。
大変な読書家で、大の梨木ファンでもある彼女のレビューを読んで、
ぜひ読んでみたくなったのだが、その彼女に「これは・・・・・・かなりしんどいぞぉ~」と
念を押されたのに惧れをなして、実はずっと手を出せずにいた。
確かに単行本の佇まいからして、いかにも手強そうであった。
けれど読みたい気持ちはずっとあって、読まなきゃ読まなきゃと思ってもいたのだった。
割と最近になって、本屋で文庫版を見つけた。
表紙の小沼寛さんという方の作品の写真が気に入ったのもあり、つい買ってしまった。
文庫版なら、少しでも気軽に読み始められるのではないか、と。
こういう気持ちは鮮度が大切だ。
機を逃すまじ、と子どもの習い事の待ち時間に読み始めたら、
これがおもしろくておもしろくて・・・
レッスンが終わって娘が出てきたことにも気がつかなかったぐらいだった。
主人公は久美という若い女性・・・・・・・・・・・・というか、実質的には
めぐりめぐって彼女が引き受けるはめになった先祖伝来の「ぬかどこ」である。
それだけでかなりぞっとするのに、この「ぬかどこ」がまた一筋縄ではいかないシロモノで
手入れが悪いとうめくし、時々たまごを産んで、そこから妙な人間が現れたりするのだ。
このあまりにも非現実な現実に多少はたじろぎつつも、
あくまでも現実的に対処していく久美の
いかにも理系なクールさもまたそこはかとなくおかしく、
ぐいぐい引き込まれるうちに前半を読み終えてしまった。
なんだ、こんなことならもっと早く読んでみるんだったなぁ・・・
しかし、梨木さんのパワーが本当に炸裂するのは後半である。
この不思議な「ぬかどこ」に導かれるようにして、一族の故郷である島を訪れた久美は
「ぬかどこ」の由来と、一族にまつわる重大な秘密を知ることになる。
その場所では、細胞分裂や発酵に関する専門用語がビシビシ飛び交う会話も
なぜか妙に生々しい有機的な香りを帯び、濃厚ないのちの気配が人をも包み込んでいく。
うまれたばかりのたった一つの細胞が、広大無辺の宇宙と直に向き合う寄る辺なさ。
それぞれがその絶望的な孤独をかかえながら、
しかしそれゆえに一層、人は人と近くありたいと願わずにいられない。
「孤」と「孤」をすり合わせ、解きほぐし、互いを隔てる「個」の壁を解体し融合し
「解き放たれてあれ」と願うこと。その繰り返し。
それがいのちの営みである、と。
・・・・・・って、わからないですよね?
何しろ「ぬかどこ」を舞台に宇宙を描いてしまう壮大な物語なのです。
1回読んだだけでは、私には到底語りきれません。
これから先、永い付き合いになりそうです。
ホントしんどいわぁ~♪
ERIちゃん、あなたは正しい!
by immigrant-photo
| 2009-03-21 02:46
| 本