2009年 03月 11日
< マイケル・ケンナ作品展 「モン・サン・ミッシェル」 > |

2009年2月10日(火)~3月14日(土)
ツァイト・フォト・サロン (日・月・祝日休廊)
マイケル・ケンナの写真を実際に見たのは初めてだ。
思ったより小さなサイズであることにまず驚いたが、その中には広大な空間が広がっている。
厳しい、本当に厳しい構図・・・なのに、冷たい感じが全くしない。
厳かで穏やかな光の中で、或いはまどろむように、或いは祈るように
静かに佇むモン・サン・ミッシェル。
昼間は観光客が列を成して訪れるこの場所も、今は静寂に包まれていて人影もない。
孤独、というのではない。
そういう拒絶された感じではなくて、何だか包み込まれるような
でもたった一人で世界と対峙しているかのような途方もない静寂。
非常に厳密で繊細でありながら、奥のほうに荒々しい力の存在も感じさせるような・・・
原風景のようにどこか懐かしく、だが、甘ったるい感傷とはおよそ無縁で・・・
まさしく正攻法のカチッとした写真なのに、同時にこんなにも叙情的で・・・
うまく言葉にできない。
・・・というか、言葉など発せずにただしずかに向き合っていたい。
そんな写真たち。
個人的に一番好きだったのは 「Dawn Mist」 というタイトルの作品。
実はこの作品は他のものとちょっと雰囲気が違っていて、
全体にものすごく淡く、肝心のモン・サン・ミッシェルも殆ど消え入らんばかりなのだけれど
その幽かな輪郭はあくまでかっちりしていてちゃんと建物の存在感を保っている。
そして建物以外の画面全体をおぼろげな光が満たしている。
その、極々わずかに紫を帯びたうすいうすい桃色に、
朝のまだ弱い光だけでなく、朝の大気にたっぷり含まれた水蒸気の粒々までも
封じ込められているかのようだ。
こうして或る朝ここに流れた時間が、そのまま永遠となった。
点数はそれほど多くはないものの、とても見応えのある展示だった。
会期は今週末まで。
by immigrant-photo
| 2009-03-11 00:49
| 美術展