2009年 03月 08日
<土門拳の昭和> |

2月24日(火)~3月8日(日)
日本橋三越本店 新館7階ギャラリー
いつのころだったか、そしてどういうきっかけだったかも定かではないけれど、
土門拳は、私が「この人の写真、好きだなぁ・・・」と意識した最初の人だ。
今風に言えばまさに “眼力” の感じられる、迫力ある作品群にただただ圧倒された。
特に好きなのは各界の著名人を撮った「風貌」シリーズ。
被写体の内面に容赦なく肉薄する、一種凄まじいポートレート群である。
その「風貌」シリーズのヴィンテージプリントが一挙公開されるというので、
先日、かの日本橋三越を再び訪れた。
「風貌」の中でも、今回見て特に恐れ入ったのは、川端康成。
こちらをじっと見つめるその眼があまりに冴え冴えと澄んでいて、
前に立つと思わず身がすくんでしまう。
肌がまたとてもうすくて透けるようで、
ロウ人形のようにすべすべとなめらかなのも却って恐ろしい。
殆ど幽界の存在のような人間離れした静けさ。
このただならぬ静謐にも怯むことなく、土門拳は真正面から受け止めたのだ。
この作品はまた、いわゆる「フィルムの表現力」の凄さを実感させてくれる1枚でもあった。
これまで「所詮デジタルはフィルムにはかなわない」というような見解を目にする度に
これって本当なのかなぁ・・・なんて思っていたのだが、
川端康成の肌の何ともいえない透明感やひんやりした手触りまで伝わってくるような
この感じが、その、フィルムならではの表現力というものなのか。
確かにこれは凄い・・・
もう1枚、何だかほほえましい思いで見入ったのは、「江東のこども」シリーズのもの。
土門が子ども達の中に入り込んで、その活き活きした表情を見事に捉えたシリーズだが、
その中に「泣く子」という写真があった。
男の子が目に腕を押し当てて泣いている。泣きじゃくっている。
その横で泣かした犯人が、ニヤニヤ笑っている。
たったそれだけ。
でも、私達はその姿を目にしただけで、この二人の間で起こっている
様々な心理的駆け引きをまざまざと感じ取ることができる。
泣いている方は、できるだけ派手に泣きながらも
眉の上あたりでしっかり相手の様子をうかがっている。
もうちょっと泣いてやろうか・・・それともこのぐらいにしておいてやろうか・・・
もっと泣いたら、あいつも泣いちゃうかな・・・
泣かした方はニヤニヤ笑いで余裕を見せているものの、内心、実はビクビクである。
そんなに泣かなくてもいいのに、何だよ・・・
オレ、そんなにひどいことしたっけ? してないよな?
でも、こんなに泣いてるし・・・
ヤベェなぁ・・・そろそろ泣き止んでくれよ
ほんの一瞬の風景のうちに、これだけのドラマが隠されている。
ありふれた風景だけれど、そこにはとてもゆたかな時間がゆったりと流れていた。
平成もいつのまにか21年となり、昭和はずいぶん遠くなってしまった。
でも、ぬくぬくしたノスタルジーにひたるにはあまりに力強く生々しい、土門拳の写真たち。
会期は今日までですが、お時間があれば、ぜひ。
by immigrant-photo
| 2009-03-08 01:10
| 美術展

