2008年 02月 20日
『めぐりあう時間たち』 |
『21g』と同じく、3つの場所・3つの時間が絡み合いながら進行するこの映画。
私がこれまで最も多くの回数繰り返して観ている映画でもある。
・・・と書いただけで、この映画を観たことのある方からは引かれてしまいそうだ。
お気持ちわかります。
何しろ私自身、この映画を初めて観た時ほど、
観たことを心から後悔して映画館を出たことはなかったので・・・
初めて観たときは、ものすごくかなしかった。
自分が心から愛する人間が、自分の望まない選択をしようとしている。
しかし、自分にはそれを止めることができない。
自分にとって大切な人だからこそ、その選択を否定することができない。
そのどうしようもなさがあまりにもかなしすぎて、
耳に残って消えないフィリップ・グラスの音楽に追われるようにして
うつむいたまま映画館をあとにした。
その日私は、映画館より他に行くべき場所があった。
それが嫌で、けれど一人で家にいるのはもっと嫌で、映画館に逃げていた
その罰が当たったのだと思ったら余計にかなしくなって
夜中まで落ち込んだ。
それなのに、次の週、もう一度観に行った。
そしてその次の週も。
そういう人が多いとみたのか、配給会社が、2回目以降は割引料金になるという
キャンペーンを展開していたが、そうでなくてもやはり観に行ったと思う。
ピュリッツァー賞受賞の原作も読んでみたが、こちらはあまりいいとは思わなかった。
読み方が悪いのかと思って2度ほど読み返してみたけれど(我ながらしつこい・・・)、
やはり好きになれなかった。
映画の方が、断然できがいいと思う。
この映画は、原作の形式を活かしながらも、
そこに内包されていたテーマをより深く掘り下げることに成功している。
主たる登場人物は3人の女性。
女流作家ヴァージニア・ウルフ(1920年代・ロンドン)
主婦ローラ・ブラウン(1950年代・ロサンゼルス)
編集者クラリッサ・ヴォーン(2000年代・ニューヨーク)
この3人を演じたニッコール・キッドマン、ジュリアン・ムーア、メリル・ストリ―プが
いずれ劣らぬ名演で、画面から目が離せない。
その3人がそれぞれに迎えたある朝をフィリップ・グラスの音楽が繋いでいく。
とりたてて変わったところもない朝、何気ない1日・・・
が、そこには人生における様々な問題が含まれていて、その度に人は選択を迫られる。
時にその選択が愛する人をかなしませ、
或いは誤った選択をして死ぬまで後悔することになるとしても、
その時々において真剣になされた選択を、他者の目で非難することはできない。
この映画のテーマは、ひと言でいえば「生きる」ということだ。
映画の中で起こる出来事の悲惨さにばかり目が行って、
初めて観たときにはとてもそうは思えなかったのだが、
回を重ねるごとに、実はこの映画は
“それでも生きていく” 人たちへのエールではないかと思うようになった。
監督のスティーヴン・ダルドリーによれば
「この作品は命の賛歌だ。
複雑で悩みやかなしみに満ちていても
最後は前を向いて生きていく。
命とは力強くすばらしいものだ。」
ラスト・シーンでメリル・ストリープの口元に浮かぶ微笑が、
この言葉を象徴していると思う。
by immigrant-photo
| 2008-02-20 01:18
| 映画